.. _introduction-to-balance-network: ========================== はじめての興奮・抑制均衡 ========================== :ref:`intro` の簡単な議論から, :math:`k = E, I` について 興奮性と抑制性の入力が均衡した状態 .. math:: J_{kE} m_E - J_{kI} m_I + J_{k0} m_0 \approx 0 が成り立てば, ニューロンの活動の不規則性が説明出来る ことが示唆された. ただし, 集団を表す添字を上付添字から下付添字 に変更した. [#]_ [#]_ .. [#] これ以降の議論では, 集団を表す添字は下付きで, ニューロンを表す 添字を上付にする (例: :math:`J_{EI}^{ij}`). .. [#] 記号 :math:`\approx` の意味がきちんと定義されていないので条 件の意味を把握するのは難しい. 実は, この節に現れる :math:`X \approx Y` の形の式 (:math:`Y = 0` でも良い) を, すべて :math:`X = Y + O(1/\sqrt K)` に書き換えれば厳密な議論となる. ただし, :math:`O(1/\sqrt K)` は ランダウの記号 あるいは O-記法 (Big O notation) と呼ばれる漸近関係を表す記号のひとつである (:ref:`asymptotics` を参照). 外部入力の項を :math:`h_k = J_{k0} m_0` と書き, .. math:: \bm J = \begin{pmatrix} J_{EE} & J_{EI} \\ J_{IE} & J_{II} \\ \end{pmatrix}, \bm m = \begin{pmatrix} m_{E} \\ m_{I} \\ \end{pmatrix}, \bm h = \begin{pmatrix} h_{E} \\ h_{I} \\ \end{pmatrix} なる行列・ベクトル表現を使えばこの式は .. math:: \bm J \bm m \approx - \bm h と書ける. 行列 :math:`\bm J` が可逆であれば, .. math:: :label: rough-balanced-fixed-point \bm m \approx \bm J^{-1} \bm h である. つまり, ネットワークのパラメタ :math:`\bm J` と外部からの 入力 :math:`\bm h` が決まれば, このネットワークの 「グローバルな状態」 :math:`\bm m` はただひとつに決まる. 興奮性と抑制性の入力が常に均衡していればこの状態は 時間変化しないはずであるから, これは :math:`\bm m` のダイナミクスの 固定点である. よって式 :eq:`rough-balanced-fixed-point` を :index:`均衡固定点` (:index:`balanced fixed point`) と呼ぶ. この式から :math:`\bm h = 0` なら :math:`\bm m \approx 0` なので, 外部入力がなければ興奮・抑制均衡ネットワーク は活動出来ない (非ゼロの均衡固定点が存在しない) ことが分かる. 一般論へ ======== 上記の議論を正確におこなうには, :math:`\bm m` のダイナミクスが 定義されていなくてはならない. しかも, それがひとつひとつは 不規則なニューロンのダイナミクスから導出出来る必要がある. この導出は :ref:`binary-network` の :ref:`mft` でおこなう. しかし今は, :math:`\bm m` のダイナミクスが .. math:: \bm \tau \frac{\D \bm m(t)}{\D t} = - \bm m(t) + \bm f(C \, \{\bm J \bm m(t) + \bm h\}) (ただし, :math:`C = \sqrt K`, :math:`\bm m = (m_{E}, m_{I})`, :math:`\bm \tau = (\tau_{E}, \tau_{I})^\intercal`, :math:`\bm f(\bm m) = (f_{E}(m_{E}), f_{I}(m_{I}))^\intercal` である) と書けることを仮定して議論を進めよう. 関数 :math:`f_E` や :math:`f_I` は集団レベルでの, 入力と出力の関係を定義している. 例えばロジスティクス関数 :math:`f_E(x) = f_I(x) = 1 / (1 + \exp(-x))` を使うことを想像しても良い. 実は関数 :math:`\bm f` はあるゆるい条件を満たせば 何でも良いことがわかる. 「フィードバック強度」 :math:`C` は, :ref:`intro` の議論 では :math:`J_{kl}^{ij}` のスケーリングをどう定義するかに依って いたが, この :math:`C` の起原は興奮・抑制均衡ネットワークの 特性を議論するためにほとんど効いてこない. そこで, :ref:`strong-feedback-system` ではこの均衡固定点を 別の視点から「導出」する.